英語フレーズのメモが使えない理由:104個保存して、口から出たのはゼロ

ドイツ人の友人とオンラインで話していて、相手の言い分に半分だけ同意したかった場面がある。日本語なら「まあ、わかるけど」で済むところを、私は「I think... I think yes but...」と言い直して黙ってしまった。

2026年9月17日読了時間:約1分
英語フレーズのメモが使えない理由:104個保存して、口から出たのはゼロ
語彙

ドイツ人の友人とオンラインで話していて、相手の言い分に半分だけ同意したかった場面がある。日本語なら「まあ、わかるけど」ですんなり済むところで、私は「I think... I think yes but...」と言い直して黙ってしまった。画面の向こうの友人は穏やかに待ってくれたけれど、会話の自然な勢いはそこで一度止まった。通話が終わってから、iPhoneのメモアプリを開いて "fair enough" と検索してみると、7か月前の日付でしっかり残っていた。ドラマのどのシーズンの第何話で拾ったかまで、几帳面に書き留めてある。フォルダーの一覧を見直してみると、保存件数は104件。そのうち、あの30分の雑談で頭に浮かんだ表現はゼロだった。

104個のメモと、出てこなかった一言

日付は去年の11月14日、金曜日の深夜だった。海外ドラマの登場人物がバーカウンターでグラスを傾けながら口にしたその一言があまりに自然で、私は動画を一時停止し、スペルを確認してメモに放り込んだ。作品名、エピソード番号、前後の文脈まで丁寧に添えてある。丁寧に記録したからこそ、書き留めたその瞬間に、まるでその言葉を完全に我が物にしたような満足感があった。

その丁寧さを見つめながら、画面をゆっくりスクロールした。洋書をKindleで読んでいたときに見つけた気の利いた比喩、シチュエーションコメディで使われていた短い相づち、ポッドキャストで司会者が繰り返していた言い回し。104個のリストは、過去1年半の私の鑑賞履歴そのものだった。どれも拾った瞬間は「これは自分の日常でも言えそうだ」と感じていたはずなのに、いざ会話の現場に立つと、引き出しの鍵どころか引き出しの存在すら忘れてしまっている。

保存した瞬間に「覚えた気」になる

リストを上から順に眺めていくと、「ああ、これ知っている」「そういえばこんな場面だった」とすべてに頷ける。読めば100パーセント意味は取れているのだ。

けれど、理解できることと自分の口から出せることの間には、想像以上に深い溝がある。指先ひとつで画面をキャプチャしたり、フレーズをコピーして貼り付けたりした瞬間、私の脳は「この言葉を手に入れた」と錯覚して満足してしまう。保存した単語を復習しないまま放置してしまうのも、怠惰というよりは、保存という行為そのものが「一度学んだ」という偽の達成感を先取りさせてしまうからなのだと思う。手元のメモには整然と並んでいるのに、白紙の状態で「今、半分納得した気持ちを英語で表して」と言われたら、何一つ文を組み立てられない。

それでも集めるのをやめない理由

だからといって、メモを取るのを一切やめてしまおうとは思えなかった。保存を繰り返すなかで、少なくとも認識できる言葉の幅は確実に広がっている。字幕なしで同じドラマを見直したとき、以前書き留めたフレーズがすっと耳に入ってくる感覚は確かにあるし、何より「いい言葉を捕まえた」という喜びが日々の読書や視聴を支えてくれている。

それに、私のメモ帳には、自分の生活では一生使う機会がなさそうな言葉も平然と並んでいる。法廷ドラマで見かけた hearsay(伝聞証拠)や、古い西部劇に出てきた much obliged(かたじけない)。同僚とのやり取りや日常会話で使うはずもないのに、私はどうしてもそれらを消せない。言葉を集める行為そのものが、実用とは別の純粋な好みの記録として愛おしいからだ。集めること自体を否定してしまったら、おそらく英語に触れる時間そのものが味気ないものになってしまう。

2週間以内に使う予定が言える5つに絞る

そこで私は、集めた山を全部覚えることを諦めて、次の2週間以内に誰にどの場面で言うか具体的に答えられるものだけを、5つ選ぶことにした。104個のリストを眺めながら、「かっこいい表現」ではなく「来週の定例ミーティングで、同僚の見積もりに半分同意するとき」というように、相手の顔と状況が浮かぶものだけを拾い上げる。

たとえば fair enough なら、ドラマのセリフのまま置いておくのをやめて、「納期は厳しいけれど、その条件なら理解できる」という自分の仕事の状況に合わせた短い文に書き直す。ドラマの登場人物の持ち物だった表現を、自分の文脈に無理やり引きずり込む作業だ。

私が普段やっているのは、そうやって選んだ5つだけをLingoTimに入れておくことだ。104個のリストをまるごと放り込むのではなく、直近で使う予定のある5つと、自分用の例文だけを置く。通勤電車の中や歩行者信号を待つ数分でカードが戻ってきたとき、画面を見ながら「あの場面でどう言うか」を頭の中で声に出してみる。

使えた表現と、まだ沈んでいる99個

そのやり方を試してみて、最初の2週間で実際に口から出たのは2つだった。件の fair enough は、オンラインの打ち合わせで相手がスケジュールの遅れを説明した際、呼吸を乱すことなく自然に出た。一方で、残りの3つは言う機会を逃したり、いざその瞬間になるとまた別の手慣れた単語に逃げてしまったりして、結局使えなかった。

使えなかった3つを前にして、私は次の5つを選ぶ。すると奇妙なことに、前回のサイクルで選んだはずの言葉のいくつかを、もう忘れかけていたりする。英語の表現を自分のものにする足取りは、拍子抜けするほど鈍い。

メモの件数は減っていない。今も増えている。ただ、その一番上に「今月の5つ」というメモを一枚だけ置いた。下の99個は沈んだまま、たぶん来年も沈んでいる。それでも、fair enough は次の通話で出てきた。一度出てくると、もうリストの言葉ではなくなる。あとの99個のうち、どれがそうなるのかは、選ばないとわからない。

よくある質問

メモした英語表現が覚えられないのは、メモの取り方が悪いから?

取り方より、そのあと思い出す機会があるかどうかです。丁寧に出典まで書いたメモでも、見返して意味に頷くだけなら記憶には入りません。

保存した表現は全部復習したほうがいい?

私はしていません。100個を薄く回すより、次の2週間で誰にどの場面で言うか答えられる5つだけを回すほうが、実際に口から出ます。

ドラマのセリフはそのまま覚えていい?

その場面ごと覚えると、その場面でしか出てきません。自分の仕事や家族の話に書き換えた例文を一緒に持っておくと出やすくなります。

メモを取るのはやめたほうがいい?

やめなくていいと思います。集める楽しさが視聴や読書を続けさせてくれます。ただ、集めた山と、練習する少数は別に管理したほうが楽です。

一度に何個くらいが現実的?

私は5つです。LingoTimにもその5つだけ入れて、短い復習で戻ってくるようにしています。次の5つは前の5つが口から出てから選びます。